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キリバス国旗
キリバス共和国、ミルクフィッシュ養殖事業化プロジェクト
(海外漁業協力財団技術協力、OFCF
:2000年〜2001年

T.キリバス共和国の概要

1.地理

キリバス共和国は赤道と日付変更線の交差する付近の、中央太平洋に広がる島嶼国です。国土は33の島(環礁)からなり、西からバナバ島(旧オーシャン島)、ギルバート諸島(16島)、フェニックス諸島(8島)、ライン諸島(8島)で構成されています。

西のバナバ島から東のライン諸島までの距離は約2,800km。領海面積は約350万平方kmに対し、国土面積は約720平方kmしかありません。国土面積は日本の対馬とほぼ同じです。

島は全て隆起サンゴ起因の環礁で形成されており、世界でもモルジブ、マーシャル、ツバルと並んで、環礁のみで国土が構成される珍しい国です。

首都で全人口の約半数が住み政治経済の中心であるタラワ島は、南北に延びるギルバート諸島のほぼ中央に位置しています。タラワ島は西の玄関口とも言え、オーストラリア、フィジー、ナウル、マーシャルなど近隣国と航空便で結ばれています。一方東の玄関口といえるクリスマス島はライン諸島に含まれ、ハワイとの定期便が就航しています。現在(20018月)のところタラワ島とクリスマス島を結ぶ飛行機便はなく、行程5日の船便か、オーストラリア・フィジーなどからハワイを経由する飛行機便を利用するしかありません。

以下、筆者の在住するタラワ島を中心として説明いたします。
タラワ島の概要
(キリバス商工業・観光省より)
タラワの空中写真
テマイク養魚場より西側を望む)

2.キリバスの自然


キリバスの島々は、隆起サンゴ礁起因の「環礁(アトール)」という地形から成っています。

キリバスの島々は数千万年前に海底から姿を現した火山島が初めの姿です。海面から頭を出した火山島の周りにサンゴ礁が形成されました。地盤の移動により海底火山はさらに数千万年かけて沈降していき、それに伴ってサンゴ礁が上へ上へと成長していった結果が現在の環礁の形となったのです。環礁は中央に「礁湖(ラグーン)」を抱えている場合が多く、その外側に細長い陸地、さらに外側には「礁原(しょうげん)」と呼ばれる浅瀬があります。礁原の外側は断崖となり、タラワでは水深20003000メートルまで一気に落ち込んでいます。

気候は熱帯海洋性気候で、気温は年間を通して2530℃程度と安定しています。雨期と乾期がありますが、明確な時期の区分はないようです。年間降水量はタラワ島で1500mm、クリスマス島で700mm程度です。

陸地が狭いため、陸上の動植物は種類数が少なく多様性に乏しい環境です。植生も比較的単調でココナッツ林(植林)、ナンヨウマツ林、マングローブ林(ヤエヤマヒルギ属の一種の単相林)、海岸性の低木林などから成ります。陸上性の脊椎動物は、哺乳類では家畜を除けばネズミ類数種(クマネズミ類、ハツカネズミ類。全て移入種と思われる)、爬虫類数種(ヤモリ類一種、トカゲ1〜2種)、鳥類20数種(殆どがアジサシ類、シギ・チドリ類などの海鳥。タラワにおける陸生鳥類はパシフィック・ピジョン(ハトの一種。和名未確認)の一種)のみです。昆虫などその他の動物も種類数はわずかのようです。(以上タラワにおける筆者の観察による)

沿岸の海洋生物は、環礁のものと、外洋性のものに分けられます。環礁の海域ではハタ類、フエダイ類、フエフキダイ類、ハゼ類、ベラ類、スズメダイ類などのサンゴ礁に多く生息する魚類のほか、ミルクフィッシュ(サバヒー)、ソトイワシなどがラグーン(礁湖)内でも見られます。他にシャコガイ類やナンヨウサルボウ等の二枚貝、巻き貝類、イセエビ類、ベニシオマネキやワタリガニ類のカニ類、トラフジャコなど。外洋性のものはカツオ・マグロ類(カツオ、キハダ、メバチ、ハガツオ、カマスサワラなど)、カジキ類、トビウオ類などの魚類、ハンドウイルカやほかの鯨類、ウミガメ類などが見られます。大型の海藻・草類で顕著な群落は、顕花植物であるリュウキュウスガモの群落がラグーン内で見られる程度です。陸地周辺の浅海域が狭いため、日本や大陸の沿岸のように大陸棚が発達している海域と比較すると、海の生態系もやはり比較的単調で現存量も少ないようです。
タラワの浜辺 オーシャンサイド パシフィック・ピジョン

3.歴史

キリバス人のルーツは、西暦200年〜500年にかけて渡来したミクロネシア系人種とされています。

キリバスは1606年にスペイン人キロスがブタリタリ島を確認し西洋史上“発見”され、1788年にイギリス人ギルバートが訪れたことからギルバート諸島と命名されました。ちなみに、1979年の独立までフェニックス諸島・ライン諸島はキリバスに含まれておらず、それまではギルバート諸島=キリバスでした。

1892年にイギリスがギルバート諸島を保護領とすることを宣言し、1916年にはイギリス植民地となりました。イギリスによる植民地統治は、太平洋戦争中に日本が占領していた時期を除き、1979年に独立するまで続いたのです。

194311月にタラワ環礁の一部であるベシオ(島)を基地としていた日本海軍陸戦隊と、ここを攻めたアメリカ海軍・海兵隊の間で死闘が繰り広げられました。約4日間に及ぶ戦闘で、日本軍側約4000人、アメリカ軍側約1000人の戦死者を出した末、アメリカ軍が勝利しました。

この間ベシオの住民は日本軍によって退去させられていましたが、誤爆等でキリバス人への被害も出ていたそうです。当時でも世界的にみて豊かな国であった日本とアメリカが、この小さな国の小さな土地を勝手に奪い合い、挙げ句の果てに5000人も死んだのです。ものに恵まれた人ほど他人のものを欲しがり、ものに決して恵まれているとは言えないキリバスの人々の約半数はいまだに自給自足に近い生活を送っています。戦争の惨劇を繰り返さないためにも、我々がキリバスから学ぶべきことは多いのかも知れません。 

戦争の遺産 日本軍の砲台跡
(右が砲座、左が砲身)
日本軍司令部跡
(銃弾・砲弾の跡が生々しい)
 

4.民族・人口

キリバスの人口の98%はミクロネシア系(キリバス人種)で、他に若干のポリネシア系、ヨーロッパ系人種が住んでいます。

言語は一般的にキリバス語。公用文書などに使用される公用語は英語です。

現在の人口は(2000年国勢調査)84,494人で、首都のタラワに全国民の49%にあたる41,194人が住んでいます。また、ギルバート諸島全体には92%の78,158人が、バナバ島には0.3%276人、ライン諸島には7.5%の6,336人(うち3,431人はクリスマス島)が住んでおり、フェニックス諸島には移住調査団が一時的に居住しているだけです。

民族の気質は一般的に陽気でほがらかで、仕事には誠実です。個人的には外国人を自由に受け入れる雰囲気があり、特に白人との混血も進んでいますが、ナショナリズム的な意識が強い一面もあります。体型はみなたくましく、十代までは男性も女性も“人間として理想的なスタイル”を維持していますが、その後はみな脂肪をたくわえていくようで、特に女性の太り方は“百年の恋も冷める・・・(失礼!)”ようです。ただし、これは著者の私見で、当のキリバス人男性に言わせれば“太っているのは美人の条件”だそうですので上手くバランスが取れているのでしょう。

音楽的な才能が非常に高く、下の写真のような合唱の時には鳥肌が立つような見事なハーモニーを難なく奏でてくれます。

一般に太平洋島嶼国では女性の“性”が開放的だと言われることがありますが、キリバスにおいては結婚まで処女であることは円満結婚の大前提となっています。新婚初夜の時“処女の証”が確認できなかった場合は、披露宴が開けないばかりか、男性側の家族から結婚を破棄されることもあるということです。
合唱団
(クリスマスパーティにて)
タラワの子供達 キリバス・ダンス
(伝統的な衣装で)

5.社会・経済

主な産業はコプラ(ココナッツの果肉)生産と漁業ですが、唯一の都市部である南タラワ以外では殆どの地域で自給自足に近い生活をしています。

主な輸出品目は、1979年にバナバ島の燐鉱石が枯渇して以来、コプラ、ナマコ、観賞魚などです。

GNP7000万オーストラリア・ドル(1999年)、一人当たりのGNP874オーストラリア・ドル(1999年)です。

旧宗主国であるイギリスからの財政援助と、燐鉱石枯渇後に備え設立していた収入均衡準備基金等により国家財政を支えてきましたが、イギリスからの経常予算に対する財政援助が1986年に打ち切られたことから、政府は各国からの援助に大きな期待を寄せています。現在はオーストラリア、ニュージーランド、イギリス、中国の大使館があり関係を深めているほか、アメリカのピースコー、イギリス・オランダなどのVSOらボランティア援助組織の事務所があります。特に、近年は中国との外交・援助関係が進み、1996年に現シト大統領が中国を公式訪問して70万アメリカ・ドルの援助を受けています。

キリバスが広大な200海里経済水域を有していることから、日本、アメリカ、韓国、中国、台湾などのカツオ漁業にとって重要な漁場になっています。各国の漁船から得られた入漁料(日本で水揚げ金額の5%)が、キリバス財政を支える重要な収入のひとつとなっています。

ドイツの援助で運営されている船員訓練学校(MTC)、日本の日かつ連の援助で運営されている漁業訓練学校(FTC)の卒業生が外国船において得る所得も、キリバスの外貨獲得の大きな柱です。

タラワ以外の離島では現金収入を得る機会が少ないことから、タラワにおいて現金収入を得る公務員やMTC/FTCの卒業生などは、実質的には家族ばかりでなく親類縁者を扶養者とすることが多いようです。

タラワの官庁街
(建物は天然資源開発省)
ベシオ港
(小型船泊地、コンテナヤードもある)

U.プロジェクトの内容

1.実施機関・目的・期間

ミルクフィッシュ養殖事業化プロジェクト(仮称)は、キリバス領海を重要な漁場とするカツオ漁業(主に一本釣漁業)の組合組織「日本鰹鮪漁業協同組合連合会(日かつ連)」がキリバス天然資源開発省・水産局と共に行おうとするプロジェクトです。

目的は、キリバス側においては食糧自給率の向上・外貨獲得を、日本側にとっては円滑なカツオ漁場の確保を前提として、

@食用ミルクフィッシュの増産・販売

A漁業用釣り餌の増産・販売

Bテマイク養魚場の経済的自立

を行うことにあります。

上記プロジェクトを前提とした、日かつ連からキリバスに対する技術協力および機材供与は1995年から開始されていますが、プロジェクト自体は今年度からの開始予定です。20018月現在は、本格的なプロジェクトの開始に向けた準備期間中で、海外漁業協力財団からの水産技術専門家(経営・経済)が一名派遣されています。

養魚場の空中写真
(中央上、右側が干潟と礁湖、左は礁原と外洋)
養殖池のひとつ
(約
1ヘクタール)

2.活動

ミルクフィッシュ養殖を行うのは、首都タラワ島にあるテマイク養魚場です。テマイク養魚場は、養殖池総面積80ha、池数41を誇る、太平洋島嶼国においては壮大な規模のものです。この池に肥料を散布し、発生した付着藻類などを餌にして養殖をおこなおうとするものです。

ミルクフィッシュ養殖先進国のフィリピン、インドネシアなどでは、養鶏場から購入する鶏糞を使って盛んに養殖が行われています。

しかし、タラワは隆起サンゴ起因の島であるため土地は平坦で狭く痩せていて、養鶏場もわずかですし、土自体にも栄養が殆どありません。大量の肥料を入手するためには外国からの輸入に頼らざるを得ないのです。

そこで、養魚場自らで養鶏・養豚を行い肥料を得、さらに生産した畜産物も販売品目に加えて養魚池の経済的な自立を促そうというのが、今回のプロジェクトです。
テマイク養魚場のスタッフ
(中央は筆者)
ミルクフィッシュの収穫 中間育成した稚魚の採り上げ
網内に700010000尾)
養魚池への施肥準備作業
(排水後の耕起と害魚駆除)
養鶏の様子
(床はおが屑混じりの鶏糞)
養豚の様子
(糞尿は排水路から肥溜めに)

3.ミルクフィッシュってなに?

ミルクフィッシュ(Milkfish)は英名の通称で、日本語では標準和名をサバヒー、学名ではChanos chanosといいます。ネズミギス目サバヒー亜目サバヒー科に分類され、1科1属1種の魚類です。最大で全長1.5メートルにもなる大型の魚ですが、食用にされるのは主に2030センチ程度のものです。

日本では高知島県以南に自然の分布が見られ、そこを北限として太平洋からインド洋、紅海までの亜熱帯・熱帯地域を中心に広く分布しています。

フィリピン、インドネシア、台湾の各国において食用として非常に重要な魚種で、世界の生産量の殆どをこれらの国が養殖生産しており、また消費しています。日本では鹿児島県水産試験場がカツオ一本釣り漁業用の生き餌として、試験的にインドネシアから種苗を輸入し養殖しています。

キリバスでは主に鉄板焼きか薫製にして食されることが多いのですが、白身の淡泊な味で、塩焼き、干物などにしても美味です。
ミルクフィッシュ
(写真は全長
30cm 体重180g
                                                                                                by Manbu Echigo

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